「何もない」北極で見つけたものとは
表紙を飾る愛らしいホッキョクグマのイラストに、「ん? おめえ、こんなとこまで何しに来た?」のコピーが目をひく。鷹栖町在住の冒険家、荻田泰永さんの著書「北極男」が講談社から出版された。
荻田さんは一九七七年(昭和五十二年)神奈川県生まれ。九九年に大学を中退した後、冒険家・大場満郎氏のことをテレビで知り、同氏が企画した北極冒険に参加。カナダのレゾリュート村から北磁極への七百㌔㍍の歩行を経験した。〇二年から北極へ一人旅を始め、これまでの十三年間に十二回、北極だけを旅している。現在は来年二月、日本人初の無補給単独徒歩による北極点到達を目指して準備中だ。
「北極には何もない。風景だって、毎日同じ空と氷の繰り返し。歩いている間は毎日クマにおびえ、熟睡もできない。しかしその分、本能を目覚めさせ、判断力、洞察力、行動力をフルに活用する。毎日ただひたすら歩き、テントを張って、飯を食い、寝て、起きて、また歩く。単調な毎日だが、生きているという実感がある。だから僕は北極に行く」(同著より)
初の著書は、目的もなく、だらだらと通っていた大学を中退し、何かできると思い込んでいた「ただの若者」だった自身が、初めての海外旅行で北極へ行き、以後十三年間で十二回も北極だけに執着する「北極男」となった現在までをつづっている。冒険中のエピソードには、ホッキョクグマとの遭遇やブリザードの体験、温暖化の影響で猛スピードで解けている北極の氷の現状、そして「なるほど」と思わされる排泄方法までが描かれている。
表紙の絵は親交のある絵本作家・あべ弘士さんが書きおろした。冒頭のコピーは、荻田さん自らがホッキョクグマに遭遇したときの、クマの様子だという。
〇八年、鷹栖町に移住。「寒地トレーニングのためではなく、単に過ごしやすい魅力があるから移住しました。北海道の人の『北海道意識』みたいな、同郷の人をみんなで応援する優しさが嬉しい。トレーニングはむしろ雪の降らない地域の方が向いてるけど、ここは精神的にとてもいい環境です」と笑顔で話す。
四六判、二百二十二㌻。税別千七百円。市内各書店で販売中。