おそらく「依存症」にり患していたのだと思う。この新聞社を立ち上げる前後の時期、パチンコにどっぷりはまった。ちょっとした時間を見つけて“パーラー”に行くと、財布の中が文字通りすっからかんになるまで使った。百円玉まで一枚も残さず。博打(ばくち)の資質、いわゆる博才は、からっきしないのを自覚しているのに、なぜかパチンコ店に足が向く。家人には内緒だが、たぶん新築住宅の柱十本分くらいは注ぎ込んだろう。

 どうしてパチンコ依存症から抜け出せたか、記憶がない。「やめよう」と誓いを立てた覚えもない。あるとき、畏敬する先輩が、「あんな仕組まれた茶番の博打に夢中になるヤツの気が知れない」と戒めてくれたのが一つの切っ掛けだったか…。

 ギャンブルに限らず、アルコールや薬物などの依存症の啓発キャンペーンの授賞式がこのほど東京で開かれ、旭川のコピーライター西川佳乃さんの「誰でも、なる。誰でも、なおる」がキャッチコピー部門の大賞に選ばれた。また、ポスター部門では、デザイナーのあべみちこさんとタッグを組んだ西川さんの作品が、審査員特別賞を受賞し、ダブル受賞に輝いた。パチパチパチ…。

 西川さんの名を聞いて思い浮かぶのは、「ものづくり大学」の開設を求める市民運動の青いポスター。覚えていますか? 「つくる人をつくる大学を、つくるんだ。」のキャッチコピー。「ものづくり大学」の運動は、成就したような、そうではないような、おかしな結果に収束してしまったが、いま考えると、あのコピーも秀逸でしたね。

 依存症の啓発キャンペーンは、公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会(田中紀子代表)などの主催。それまで啓発に使われてきた「ダメ。ゼッタイ。」に代わるキャッチコピーと、それを使ったポスターを新たにみんなで作ろう、というのが目的。キャッチコピーとポスター、そして「依存症からの回復を感じた瞬間」の体験談募集には、全国から合わせて八百五件もの応募があったそうな。

 西川さんは一九六二年生まれ。すでに成人した二人の男子の母である。コピーライターとしての仕事に就いて、ちょうど四十年になる。「今年、このような大切な役割を担うコピーを書けたことに、何か不思議な力と縁を感じます」と西川さん。若くしてパートナーを亡くし、父親の役割も果たしながら子育てをしてきた思いも込められたコピーだったのかもしれない。以下、西川さんの話。

(工藤 稔)

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