「でん粉を百倍か二百倍に薄めて、噴霧器で散布するんです。これは効きますよ」と教えられた。家人が毎朝飲むニンジンジュースの材料を、ここ二年ほど秋から翌年春まで買わせていただいている農業者からの電話である。上富良野にある彼の農場では、無・低農薬のニンジンやトウモロコシ、近ごろはワイン用のブドウを栽培し、近々ワイナリーの開設を目指している。障がいを持っている人の働く場「ソーシャルファーム」という言葉を初めて耳にしたのも、彼の話の中でだった。
“大規模でないからこそ、多様な付加価値を獲得できる農業”をひたひたと実践する優れた農業者の彼が、昨年十月一日号の小欄で書いた「赤トンボの不在と、『ネオニコチノイド』系農薬の関係について考える」を読んで、「恥ずかしい話ですが、ネオニコチノイドの何たるかを知りませんでした」と話してくれたのは、何かの宴会の席でだったか。
その後、かなり悩んだのだそうだ。彼の話を要約すると「トウモロコシが売り物にならなくなる可能性がある。商売の一つの柱を失うわけだ。だが、その農薬がミツバチやトンボに悪影響を及ぼしている可能性がある、人の体への影響も否定できない、少なくてもEUでは禁止になった、と知ってしまった以上、使うわけにはいかないと思った」。
昨年はハチミツを希釈して散布した。だが、ハチミツは高価な上に、効き目も今一つだった。そして今年、農業試験場から教わったのが「でん粉」。害虫の体に粘膜状に付着することで虫を殺す。「これは効きましたよ」と電話機の向こうの彼の声が弾んだ。
さっそく試してみた。オクラの茎や葉にアブラムシと仲の良いアリがたくさん付き始めていたのだ。でん粉は、ネオニコチノイド系農薬のように「劇的」に効きはしなかったが、アリは次第に姿を見せなくなった。その結果、種を蒔く時点での私の不手際もあって、昨年ほどの豊作ではないが、家人と二人、毎日あれこれ料理して食べるには不足ない収穫はある。
(工藤 稔)
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