シリアで取材中に銃撃されて亡くなったジャーナリスト山本美香さん(45)は、今年五月に早稲田大学で寄付講座の講師を務めた後、学生に向けて次のようなメッセージを贈ったという。二十二日付の朝日新聞が伝えている。 「日本で暮らす私たちにとっては、戦争は遠い国の出来事と思うでしょう。でも、紛争の現場で何が起きているかを伝えることで、世界が少しでもよくなればいい。報道することで社会を変えることができる、私はそう信じています」 山本さんは独立系通信社「ジャパンプレス」に所属していた。フリーランスの記者兼カメラマンである。同じ朝日の紙面に「日テレと映像提供の契約」の見出しの記事がある。「民放テレビの関係者によると、民放の紛争報道は、フリージャーナリストたちとの協力関係によって成り立ってきた。資金のあてがつくことでフリー記者は戦場取材が可能になり、放送も約束される。NHKや新聞に比べ人手が少ない民放にしてみれば、海外報道を補強でき、社員を危険にさらすリスクも回避できる。 日本テレビによると今回の取材はジャパンプレス側からの提案だった。現地での行動はジャパンプレスが判断し、日テレは提供された映像素材に対し報酬を支払うという契約を交わしていたという。こうしたフリーとの付き合いは民放各局で広く行われている(後略)」 この記事は末尾に「朝日新聞社は危険地域の取材について、本紙記者に代わってフリージャーナリストに依頼することはない。取材場所や取材方法を含め、記者を危険地域に派遣するかどうかは独自の判断で決めている」と書いている。何だか、テレビ局は生命が危険にさらされる取材地はフリージャーナリストに任せていると批判し、「うちは他人任せにしない」と威張ってみせて、その実、シリアに自社の記者を派遣していないことを「独自の判断」などと強弁しているように読める。朝日に限らず日本のメディアにはびこる「格差」や「二重構造」を知らされる山本さんの死だった。心からご冥福を祈る。
(工藤 稔)
(全文は本紙または電子版でご覧ください。)
●電子版の購読は新聞オンライン.COMへ