十一日付夕刊に折り込まれた号外を手にして、罵声が飛び交う現場が目に浮かんだ。そして、いささか可哀そうな気もしたのだった。B4判モノクロ、いかにも急ごしらえ然とした号外には「パンダ赤ちゃん急死」の大見出しと、「母親のシンシンに抱かれて乳を飲んでいた赤ちゃん(6日、東京動物園協会提供)」の説明が付された写真がある。号外を折り込んでいる読売新聞夕刊本紙の一面トップには「子パンダ すくすく」「シンシン 新米ママ修行中」の見出し、三枚の写真とともに上野動物園で二十四年ぶりに誕生したジャイアントパンダの赤ちゃんに関する丁寧な記事が載っていた。
読売新聞は五日の子パンダ誕生で号外を出していたから、七日目にして二度目の号外を出さざるを得ない状況に陥ったのだった。そして翌日の朝刊一面には、「パンダの赤ちゃん死ぬ」の横見出しの記事と「おことわり」を掲載した。いわく「紙面作成の時点で元気だと伝えられていたため、掲載したものです」。おちょくるわけじゃないけれど、パンダの出産程度のニュースを号外で伝えたり、一面トップで扱う感覚が、お恥ずかしい二度目の号外発行・折り込みにつながったのではないの? まぁ、赤ちゃんパンダの死亡が確認されたのは午前八時半なのに、上野動物園が記者会見を開いて発表したのが午後二時半からだったという、同情できる時間差があるにはあるけどさ。
新聞では産経新聞だけが報じたようだが、赤ちゃんパンダ誕生について、東京都の石原慎太郎知事が六日の定例会見で、「全然興味ない、あんなもの。二年たったら(中国に)返さなくちゃいけない」と語ったそうな。出産前の会見では尖閣諸島問題にかこつけて「センセン、カクカクと名付ければいい」と発言していた。出産後の会見で記者が「赤ちゃんは一頭だったが」と質問すると、「センカクと付けて、返してやればいい」と答えたという。「パンダすくすく」のニュースより、「センセン、カクカク」の石原発言の方がよほど記事としての価値がある気がしますけど、時々、都合の良い時だけ、政治家のポプュリズムを批判する大新聞の判断は違うのですね。
そうそう、新聞やテレビが挙げて「祝・子パンダ誕生」の大騒ぎをしているのを眺めながら、その二日ほど前の「札幌市の小学校の近くでヒグマが歩いているのが目撃され、小学校では屋外での授業を取りやめるなどして警戒している」というニュースを思い出していた。目撃されたヒグマは体長は一㍍ほどだというから、まだ若いクマだろう。テレビカメラの前で、母親らしき女性が「早く捕まえてほしい」と心配そうな表情で話している。
(工藤 稔)
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