二人の読者から、奇しくも全く同じ「なんとかならないものでしょうか」との声が寄せられた。四月十九日から今月一日まで、常磐公園内の道立旭川美術館で開かれた「エッシャー展」の最終日の盛況について。会期中の入館者は一万七千四百二十七人。美術館側も「うれしい誤算」と喜ぶ、意外なほどの入館者だったそうな。「若い人や夫婦が子どもを連れて、という姿が多かったのが印象的でした」と職員は言う。普段、美術館にあまり足を向けない層が、エッシャーが描き出す不思議な世界に興味を持った、アートとはいささか異なるチャンネルからも人を呼び寄せた、と言えそうだ。

その展覧会の最終日に入館したと言う読者の一人の話はこうだ。

――始まってすぐの頃に観に行っていたのですが、もう一度観たい作品が何点かあって、最終日に、美術館に出かけました。夕方、四時少し前でした。それほど混んではいないだろうと思っていたら、すごい人なんです。最後の展示室には五十人ほどの人がいて…。四時半に、「午後五時で閉館します」とアナウンスがありました。丁寧な言葉づかいで、こちらを追い立てるようなニュアンスもありませんでした。十分前にも「あと十分で閉館です」とのアナウンス。柔かな声ですが、観ている側は慌てます。絵を鑑賞する気持ちにはなれなくなります。それで、思ったんです。確かに、そんなギリギリの時間帯に入館した私に責任があるのは分かります。混んでいないだろうと予測した私がバカでした。でも、でも、美術館なんですから、文化なんですから、もう少しゆとりと言うのか、柔軟性と言うか、臨機応変、アドリブと言うか、あの混みように対して、「三十分延長します」とならないものか、って。日曜日にしか行けない人だって沢山いるわけだし、特に最終日なんだから、「見逃せない」と感じて入館している人たちが多いはずなんだから。

もう一人の方も、同じ時間帯に入館し、ほとんど同じ感想を持たれて、私に電話をくれた。決して強い要求口調ではなく、「どうにかなりませんか」と。

美術館の水田順子副館長に聞いた。

「一回、二回ならば、ボランティア精神で可能かもしれません。でも、そうした要望にきちんと応えるとすれば、勤務する人たちの条件整備が必要になります。受付や監視にあたる非常勤の職員は、週の労働時間が三十時間以内と定められています。もし、開館時間を延長するとすれば、一般職員がそれらの職務をカバーしなければなりません。現在の制度、態勢では…。ただ、混雑の度合いがひどく、入館できずに帰られる方がいるような、そんな状況だったならば、時間延長も必要だったかもしれませんが、今回はそうではなかったと思います」

「時間通りに閉館したことをもって、お役所的と言われるのはすごく残念です。ご承知のように、厳しい財政状況の下で、職員たちもサービス残業のような形になることもあって、それでもプロとして納得がいく仕事をしようと、最大限心を砕いて取り組んでいるつもりです。九時―五時で帰れる職場で決してなく、いい形を目ざして頑張っています。利用する側も、時間が足りない時にどうやって観るかとか、開期末には混み合う場合があるという認識を持つとか、ルールや仕組みを守りながら利用していただく、というのも文化を育てるという意味なのかなとも思います。五分、十分の延長であっても、光熱費など維持管理には相応の経費がかかるということも理解していただきたい。税金を使って運営しているわけですから」

「なんとかならないものでしょうか」という声と、美術館側の説明と、私が黒白を付けられることではない。ただ、私に電話をくれたもう一人の方が次のような話をした。

「一緒に行った友人は『公務員が運営している、公立の施設なんだから、時間延長なんて要求しても無理だろう』と言うんですが、利益追求が目的ではない公立の文化施設だからこそ持てる柔軟性って、あると思うんです。私たちはあまりに慣らされてしまっているんじゃないでしょうか、お上は融通が利かないもんなんだ、という古くからの風習や既成概念に」――。

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