これだから、書店で本を買うのをやめて、便利だからとネットを使うなんてあり得ないと思うのだ。

 過日、奥の小さなギャラリーを覗いて、ついでに店内をフラフラしていた。ふと、残り一冊になった、平積みの本に目が止まった。『戦争は女の顔をしていない』。どこかで聞いたような…。手に取ってページをめくると、漫画(コミックって言うのかな)だった。しかも、いわゆる一見、“女の子系”のタッチの。「小梅けいと」という漫画家の絵だそうな。

 【原作】スヴェトラーナ・アレクシエーヴッチとある。彼女は二〇一五年、ノーベル文学賞を受賞している。あっ、それで、かすかにユニークな書名の記憶があったのか。後から調べてみると、一九四八年五月三十一日、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国生まれ。ベラルーシ人の父とウクライナ人の母をもつ。父親が第二次世界大戦後に軍隊を除隊すると、ベラルーシ・ソビエト社会主義共和国に移住して、両親は教師に。

 彼女はベラルーシ大学でジャーナリズムを専攻し、卒業後はジャーナリストとして活動。聞き書きの手法で、大事件や社会問題を描いた。第二次世界大戦に従軍した五百人にのぼる女性たちの証言を集めた『戦争は女の顔をしていない』(一九八五年出版)は、第一作だそうだ。第二作『ボタン穴から見た戦争』では、第二次世界大戦の独ソ戦当時に子どもだった人々の体験談。

 帯には、「ノーベル文学賞を受賞した史上初のジャーナリスト。取材した五〇〇人にのぼる第二次世界大戦従軍女性たちの証言をマンガ化し、発表されるやいなや大反響を得た作品の、待望のコミックス…」とある。

 書店で手にしたのは第五巻。第二十五話は、「私たちの連隊は、全員女性でした 一九四二年の五月に戦線に飛び立った…」で始まる。旧式の複葉機の絵。「私たちが与えられたのはPо―2型機 音の小さな小型機」「地面近くの超低空飛行しかできない飛行機」。証言者は、アレクサンドラ・セミョーノヴナ・ポポーワ(親衛隊中尉・爆撃手)。「戦前には航空クラブで少年たちが訓練に使っていたけれど、戦争でそれを使うことになるなどと誰も考えたこともありませんでした」「ベニヤづくり 目の細かい綿布が張ってあった」「弾が当たればマッチが燃えるように 地上に着くまでに燃え尽きてしまう」「唯一の金属製部分はM2エンジンだけ」「終戦間近になってパラシュートと操縦室に機関銃が支給されました」「それまでは武器などまったくなく、下面に四つの爆弾懸吊架(けんちょうか)が付いていただけ」「今の言葉で言えば肉弾特攻隊ね」「私たちには勝利のほうが命より大事でした」

 名作をマンガ本で読む、というのは恐らく初めての経験だ。買い求めた五巻を読みながら、書店に注文した一~四巻が届くのを待った。この待つ時間も、本の楽しみの一つだという気がする。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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