二歳下の同僚記者が大学生のころ、学費は半期六千円、年間一万二千円だったそうな。彼は国立大学の出だ。私が東京の私立大学に入学したとき、学費は年間七万二千円だった記憶がある。月額に換算すると六千円だ。親元から送ってきた授業料を使い込んで納付せず、大学から親元に督促状が送られたとかで、親にこっぴどく叱責された思い出がある。半世紀ほど昔のことである。

 JR中央線・西荻窪駅から徒歩十分の三畳間のアパートの家賃は月額五千五百円。小さな台所は付いていたが、トイレは共同だった。家賃と、月額の授業料がほぼ同じだと考えれば、まぁそんなものかな、と思ったりする。だが、国鉄職員だった父親の安月給を思えば、年に七万二千円の学費を支払い、月に一万五千円を息子の元に仕送りするのは、どれほどの負担だったことか。そんな親の思いも、苦労も無視して、四年で中途退学してしまうんだからなぁ。生きていれば百一歳になる父親が、その話を聞いて、「オレも鉄道、やめるかな…」と肩を落としたという母親の思い出話に今さらながら、身が縮む。

 いやいや、話がそれた。学費の話題に戻す。東京大学が来年度に入学する学生から学費を十一万円値上げすると発表した。国が決めた標準額の五十三万五千八百円から、六十四万二千九百六十円に値上げするとのこと。入学金を含めた初年度納付金は九十二万四千九百六十円になる。

 少子化が一段と進む二〇四〇年以降の大学のあり方を検討している、文部科学相の諮問機関・中央教育審議会(中教審)の特別部会で、委員の一人である慶応義塾の伊藤公平塾長が、国立大学の学費を百五十万円程度に引き上げるべきだと主張したとのニュースが話題になった。

 朝日デジタルの六月二十三日発信の伊藤塾長のインタビュー記事によれば、「社会水準を向上し続けるためには高等教育の質向上が必須になる。優れた人材を育てなければ日本の国力は衰えてしまう」として、「四〇年以降、高水準の教育を国立大が実施するためには、最低でも学生一人当たり三百万円は必要と考える。そこで受益者負担という視点から、半額の百五十万円を負担してもらうことを提案した」のだそうだ。

 一方で、全国八十六の国立大学でつくる国立大学協会は六月、都内で会見を開き、国から国立大学に基盤的な経費として配分される運営費交付金が減少していることに加え、「近年の物価高騰や円安などで実質的に予算が目減りし続けている」として、「もう限界です」と切迫した財務状況を訴え、国や地域、産業界や国民に理解と協力を呼びかける声明を公表した。

 安倍政権下から、国は「世界ランキングをあげろ」「スーパーグローバル大学」などと大学の“国際競争力”を煽る一方で、大学予算は削り続けた。国立大学の運営費交付金は、今年度は全体で一兆七百八十四億円で、法人化以降の二十年前から千六百億円削られ、率にして一三%減少している。

(工藤 稔)

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